ぜひ皆さんにご紹介したい本と出会ったので、今日はそのお話をします。
書かれたのは、イタリア人のドナテッラ・ディ・ピエトラントニオさんという、歯科医師をしながら小説を書き、大成功を収めた方です。
あらすじ
突然両親から、「あなたは本当の娘ではないから、今から私達の事は叔父さん、叔母さんと呼んで、これからは本当の両親の所で暮らすのよ」と事情を一切知らされず、大人の都合で荷物のように住む場所を移動させられた主人公の「わたし」。
裕福な両親の下、バレエや水泳を習い、海辺の街で何不自由なく育った「わたし」。
ジェラートを食べて、大好きな親友パトリツィアとおしゃべりして、きっと同じ高校に進学したであろう明るい未来。
それらが、たった1日で崩れ去る。
預けられた…というか戻された実家は、今まで暮らしてきて環境とは大違い。
貧乏子沢山の貧困家庭。教育が行き届いておらず、粗野な兄達や訛りの強い両親に挟まれ、13歳の「わたし」には、絶望感しかないかと思われた。
…が、自分を何かと気にかけて守ってくれる、長男のヴィンチェンツォと、小さいなりに、姉ちゃんを守ろうとしてくれる妹のアドリアーナだけは、少し違っていて…。
面白い所を、ネタバレを避けてご紹介します。
予想だにしない展開
平和だった少女の日常が一変し、傷つき苦しみながらも人との触れ合いで少しずつ変わっていく人間関係や、避けられない出来事が、残酷なまでに突き刺さります。
また、生みの親・育ての親の、2人の母親の間で揺れる「わたし」ですが、明かされていく真実に、どうして周りの大人たちが、このような行動とったのか、愛情ゆえのだったのか、かえって幸せだったのか、読み進めながらある時突然現状を理解してヒヤリとするでしょう。
関口英子さんの訳が良い
今までに関口さんの訳された本を何冊か読み、楽しい読書体験をすることができましたが、本作も飽きずに読めて、とても面白いです。
主人公の「わたし」が恥ずかしいと思っている、実両親の方言の強い口調や、大人顔負けのブラックユーモアや機転を持つ、妹アドリアーナの口調を、標準を話す人物たちとは分けて訳しているのが雰囲気が出ていてとても良いと思いました。
個人的な感想
主人公の目線が、13歳の少女だったり、大人になったりして新鮮でした。
親から幼少期に、「勉強しなさい!」と怒られた経験を持つ方は多いと思いますが、貧困家庭だと、自主的に勉強する事で、「暗い時間から勉強して電気代がかかる!」と逆に嫌味を言われるシーンがあってハッとされられました。
様々な匂いや美味しそうな料理を感じながら静かに語られる本作は名作なため、近日中に映画公開も決まっているそうです。
どんな役者さんが演じられるのか、今からとても楽しみです。
イタリア文学を手に取ったことがない方も、この機会に是非お読みいただきたいです。