3歳からピアノを習っていました
かつてわたしは、ピアノガチ勢でした。
初めて行った、オルガン教室から始まり、耳が良かったので、楽譜が読めなくても、なんとなく、先生が弾いたものをその場で覚えて再現することができました。
この子はピアノの才能があるかもしれない!勘違いした親が、いつの間にかピアノを買ってくれました。
~目次~
ピアノは日常で、やらなくてはいけない事でした
ピアノ1台って、車1台ぐらいのお金がかかります。
車って、それこそ1台数十万円から数百万、中には8桁以上のものもあり、ピンキリです。我ながらいい例えだと思います。
勉強や、他の習い事や部活動の合間に練習をし、多い時では1日5時間以上弾き続けたこともあります。
毎週個人レッスンを受けていて、レベルにあった本を進めていき、できなかった所や、時間が足りなくなってしまったら、次週まで練習して仕上げてくる、というスタイルです。
ピアノは向いていたのか、出された課題はだいたい1回でOKが出ました。
学年が上がるにつれ何度か先生が変わり、最後に習った先生は、ミスをすると指揮棒でバシバシ叩く、スパルタで有名な先生でした。
音大合格者やコンクール入賞者などを輩出した実績のある先生で、評判を分かっていて親はそこに入れたのです
立ちはだかる壁
学年が上がるにつれ、本も曲も、要求されるレベルがどんどん上がっていきました。
最初は、ちょっと練習すれば大概のことはできてしまったわたしも、できないことの方が多くなってきました。
小学校1年生の時に、テストで100点を量産できた人も、学年が上がるにつれて100点を取ることが難しくなっていくことに似ていると思います。
どうしても克服できなかった事
わたしがどうしても練習で克服できなかったことがあります。
手が子供並みに小さいのです。
わたしは大人なのですが、体の成長が小学校高学年あたりで完全に止まってしまったようです。
どのくらい小さいかと言うと、スマホを片手で操作できない、大人用の箸でご飯を食べるのが苦手(菜箸でご飯を食べるのを想像してみてください)、手袋は常にSサイズでも余裕があります。
そして、手が小さいことで一番困ったのが、曲が難しくなるにつれ登場するオクターブを押さえられないということです。
関節が硬いんじゃ?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、柔軟性は高い方です。
何度も何度も練習したけどダメでした。
悪い練習が祟って、手首を痛めたまま何ヶ月も治らなかった事もあります。
これには先生も困り果てて、「麻歩さんは一番下の音を削って弾きましょう」と言われる始末。
クラシックの世界では、譜面通りに弾いて初めて評価されます。
ですから、譜面通りに弾けないわたしはお話になりません。
コンクールや発表会で、譜面通りに鍛えてきた人たちと、まともに戦う事ができません。
今思えば、演奏家としてプロにならなくても、技術を活かす場所は沢山あります。ですが、当時のわたしは弾く事以外に興味がなく、人に教えることや、曲を作る事は自分には向いていないと思って努力する事を放棄してしまいました。
感動的な演奏と、穏やかな心
これで最後にしようと思っていた発表会。
その日のトリは、コンクール入賞歴のある、先生のお気に入りの高校生の先輩でした。
もう弾かなくていいんだ、とプレッシャーから解放されているわたしに、ある曲が飛び込んできました。
決戦…!?
FF6(ファイナルファンタジー)というスーパーファミコンのRPGの中に出てくる「決戦」という曲です。
一度聞いたら忘れない、ボスバトルのときに流れる、疾走感のある曲なのですが、これが本当にカッコよくて!
うわぁぁぁぁ……!!!
先輩の演奏に圧倒されました。
ゲームだけの楽譜ってあるんだ、こういう人がプロになるんだ、先生が気に入るの、わかるなぁ、とか、色々な事を思いました。
そしてわたしは、進路選択から、ピアノを外しました。
音大には行かないしピアノも続けない。そう親に言いました。
それは、「どうせわたしなんて…」と、ネガティブな気持ちから感情的に決めたわけではなく、「これは…無理だわ!」と、納得してでの事でした。
天才キッズと呼ばれる、おそらくまだ手は小さいだろうけれど、結果を出している子供達をテレビなどで見かける事ありますよね。
だから、手の小ささだけを言い訳にするつもりはありません。
自分は、天才ではなかったのです。
もし、今やっている全ての習い事と勉強を捨てて、ピアノに全振りしたとしても、自分が何者かになれるビジョンが、まったく浮かばなかったのです。
俯瞰的に見て、違う進路を取った方がいいと思ったのです。
実はこの時、めちゃくちゃ揉めました。
親に金をドブに捨てたとまで言われました。
お前にピアノをやりたいか聞いたら、やりたいと言ったから買ってあげたのにとか、(ごめん覚えてない)いくらかかったのにとか。
でも、最終的には学校の勉強をきちんとする事で納得してもらいました。
勝つために弾かなくてもよくなってから、ピアノスコアを買いに行きました。
FF6、聖剣伝説3、ロマサガ3、クロノトリガー。
全てわたしの好きなゲームです。
指が回らなくても、正しく押せなくても、楽譜が読めなくても、もう怒られる事はありません。
わたしは、プロになれる可能性に見切りをつける事で、好きな曲を好きなように弾ける自由を手に入れました。
それは穏やかな時間でした。
そして気づいたのです。
ピアノが大好きだと。
幼少期からのピアノで得た能力
左右の手で違う動きができる
「どうして左手と右手、別の動きができるの?」
と、ピアノの経験がない方に聞かれる事がよくあります。
正直申しまして、わかりません。答えになってない、と思われるかもしれませんが、深く考えずにやっているので、言葉で説明ができません。
これは、訓練をつむことで、脳が変化し、複雑な動きを、さほど負担なくできるようになるからなのだそうです。
初めて読む外国語の本が、自分の語彙力で対応可能な範囲であれば、読めてしまうのと似ているかもしれません。
ピアノの訓練をする事は、脳を変化させる事なのだそうです。
絶対音感がある
これは、日常生活で不協和音が気になったり、音楽が聞こえてくると、頭の中で強制的にドレミに訳してしまって、脳のキャッシュがいっぱいになって疲れたり、相手の話に集中できなかったりなど、デメリットもあるのですが。
知らない曲でも、一度聴くと、なんとなくその場で覚えられる、自分の技術の範囲内であれば弾ける、などはメリットでしょうか。
視力が弱くて楽譜が見えなくて、前のめりになって見ると先生にピシャーってされるのが怖くて、それを避けるために先生が最初に弾くお手本を1回で覚えてましたね(笑)
この絶対音感については、身につけられる年齢が決まっていて、大きくなってから努力しても、ほとんど成長の見込みがないようです。
記憶力がよい
人間は話しながら、調音結合といって、次に来る音に合わせて無意識に口の形を変えているそうです。
ピアノの訓練を受けた人は、多くの読譜により音を画像として記憶し処理するのだそうです。
つまり、目の前の音符を短期記憶し押しやすいよう体の準備をしつつ、もっと先の音符を読んで対応させるため、記憶力がよくなり、語学に長けた人が多いのだそうです。
人生、暗記力だけで乗り越えてきた気がします。
ずっと昔に旅行に行った時のガイドさんの名前とか、声優さんの名前とプロダクションとか、悠々白書の格ゲーの戸愚呂100%を出す裏技のコマンドとか、解の公式とか、何の自慢にもならない事を未だに覚えていますし、なんでそんな事覚えてるの?と気持ち悪がられる事もあります。
覚える内容を、能力者自らが設定できないポンコツスキルではあるんですけどね。
音ゲーができる
いわゆるリズムゲーム、音に合わせてタイミングよくボタンを押し、ライバルとスコアを競うゲームの事ですが、初めて聴く曲でも、初見である程度対応ができる事、判定でズレていると感じたら、自分で修正できる事などが挙げられます。
普段ゲームをやらない方でも、ピアノに限らず音楽教育の経験があれば、早い段階で操作に慣れ上級者向けの譜面がクリアできるようになるのではないでしょうか。
うんうん、仰りたい事はわかりますよ。親はこういう事に能力を使って欲しかったわけじゃないって。
でも、この対応力は、先ほど書いた記憶力と関係していると思うのです。
もしピアノをやっていなかったら、勉強も嫌いで学校の成績も悪かったかもしれません。
参考文献の紹介
最後に、「ピアニストの脳を科学する: 超絶技巧のメカニズム」というたいへん面白い本を紹介します。
著者の古屋晋一先生は現役の音楽家で研究者の方。
驚くべきは出展の多さ。
ですから、ピアノは子供の情操教育にいいから、やったらいいと思うよ~フフーンみたいな薄い内容は書いていません。
全てに根拠があるんです。
また、いったんピアノから離れてしまった人が、大人になってから再開しても、効率のよい練習ができ、上達が早いそうなので、小さい頃からやった人、大人になってから始める人、どちらにも希望を残すような内容になっています。
他にも、無数の情報を高速処理する事で起こる、脳の状態が変化しすぎて、脳の指令を抑制できず、意図しない指が動いたり、動かなくなったしリて弾けなくなるなる、フォーカル・ジストニアという、正確さを求められるクラシックのプロに多い病気の事や、4時間以上の練習で故障のリスクが上がる事、プロは1秒に10.5回正確に連打できる事(無理無理!)など、実際のデータ、どうしてそうなるのかという詳しい説明が載っていますので、ピアノ経験者や関係者、お子さんにピアノを習わせたい方なども、ぜひ読んでみてくださいね。
趣味なら故障のリスクは少ないし、気分転換にもなります。
忙しい方でも、朝の30分、夜の30分、無理なら、音をイメージしながら指を動かすだけでも効果があるらしいです。
わたしは、お金を頂いて弾く側に回る事はありませんが、反応を早くしたい所や、自分のできていないままになっている部分を克服して、老後はピアノを弾いて暮らしたいです。
コンピューターピアノおばあちゃんになれるように、練習のハードルを下げるべく、家の環境を少しだけ改造しました。
趣味で弾きながら、わたしができない事ができる、すごい人を応援して生きていきます。