かつて、名前を出せば、「すごいね」と言われるような大企業に勤めていた事があった。
わたしは契約社員として採用されたのだけど、小規模な前職場でのおばちゃんによる粘着質ないじめに辟易としており、大手だから安心だ、いじめやサービス残業もないだろうし、上手くやって定年まで勤めあげよう、と心に誓った。
結果、入ってから前職のようなイジメこそなかったが、想像と現実のギャップを目の当たりにすることとなった。
~目次~
なぜか社員と同じ仕事
残業は月平均5時間。
パソコンの基本操作ができれば問題ありませんと求人票に書かれていたので簡単な事務仕事のような感じをイメージしていた。
仕事のできる、スーパー総合職社員さんみたいな人がいて、伝票の入力など、その方の手の回らない部分を手伝うような仕事なのかなと思っていた。
が、実際は業務補佐、サポート的な仕事内容ではなかった。
あなたの担当は、このエリアからこのエリアと決められ、それを期日までに処理しなければならない。一人で。
部署には複数の人がいたけど、やはりそれぞれの担当を持っており、同じ仕事をしている人が一人もいなかった。
コールセンターなどのように、大勢の人間が同じ仕事をしていて、誰かが休んでも他の誰かでフォローしあうというような職場環境ではなく、担当業務が決められていたため、処理の関係で、有給は使ってもいいけど、毎月この日からこの日までは絶対に休むなよという無言の圧力があった。
前もって休みたい旨を伝えていても駄目で、仮に自分が休んでも自分の仕事を代わりにやってくれる方は誰もいないのだ。恐怖でしかない。
個性を出す事の罠
職場では浮かないように、好きではない肩こりのひどくなるスーツや、足の痛くなるヒール、地味な色のオフィスカジュアルなどを着ていた。
職場は昼間仕事をしているように見えないような自由な服装をしている人が結構いて、さすが大手企業、結果を出していれば細かい事は言わない心の広さ!と感心していたけれど、新人の分際で個性を出すことはマイナスと考え、地味な色の無難なコーデで出勤していた。
入社してすぐ、歓送迎会があった。
その席で直属の上司が、
「麻歩さんは、周りに気を使いすぎ。もっと自分を出していいよ」
と言ってくれた。
そんなふうに思ってくれていたんだ…と、嬉しくて、次の日からスカートに赤や黄色の服を合わせるようになった。
そんな風に意識を変えて、1ヶ月くらいした頃、事件は怒った。
非常識な奴というレッテルを貼られる
「麻歩さん、ちょっと…」
朝礼の後、上司に呼び出された。
密室で2人きり。
何を切り出されるのだろうと待っていると、服の袖を左右に何度も強く引っ張られた。
「あなたねぇ、仕事する時の服装知らないの!?せっかく仕事できるのに、みんな言ってるよ。服のせいで全部マイナス!」
身につけていたアクセサリーを床に叩きつけられて唖然とする。
みんなが…?わたしを…??
え…わたし、何度かこの格好してきた事あったけど。
入社してちょうど1ヶ月ぐらいの時だった。
数えきれないくらい、すいませんを繰り返して、他にも何か言われたと思うけどショックすぎてはっきりとは覚えていません。
みんなが…わたしを。
今日の格好かわいいねと言ってくれたあの人も、何でも聞いてねと言ってくれたあの人も、お昼一緒に食べませんかと言ってくれたあの人も、みんな私のことを心の底では悪く思っていたんだ。そのことがショックでなりませんでした。
この日から私は周りを使用することができなくなりました。その日はショックでメロンパンを両手に会社の敷地をぐるぐる回りながら一人でお昼を取りました。
きっかけを作ってしまったのは、わたしです。
上司が言っていた、出していい自分は、服の事ではなかったのかもしれない。
上司が出してきたダメが、今日の服に関してだけなのか、これまでの服装も含めてなのか、色がダメなのかアクセサリーがダメだったのか、それとも仕事の仕方やその他の部分にも及んでいるのか等、具体的に何がダメなのか、聞きたかったけれどショックで言葉が出なかったことと、聞いたことで面倒な奴だと思われて首を切られることが怖かったので結局何も言うことができませんでした。
入社1ヶ月。
最低3ヶ月は勤めないとねぇ~という声がどこからか聞こえてきたけれど、わたしの心は「辞めたい」に傾いていました。
なんでわたしだけぇぇ!
その日から、なぜかわたしだけ怒られることが増えました。
お世話になっている先輩がいらっしゃらなかったので、
「今日は◯◯先輩はお休みですか?」
と世間話のつもりで言ったら、
「個人情報を聞いて何を知りたいの!?」
と、上司が刺すような冷たい声で言い放ちました。
「すみません」
と謝りました。
この会社は、帰る際に机の上を空にして帰る決まりなのですが、他の方が書類を机の上におきっぱなしにしたまま帰っても何もお咎めなしなのに、わたしがある日ボールペンを一本置き忘れて帰った時、意識が足りないとみんなの前で罵倒されました。
「すみません」
と謝りました。
そんな感じで、他の方は問題にならないのに、わたしだけ大事になるようなことが日常的になりました。
ベテランの契約社員さん
部署内に、何でもわかるベテランの社員タカコさん(仮名)がいました。
隣の席で、わたしの指導係をしてくれていた先輩と話していた時のことです。
「私がいない時は、タカコさんに聞いて?何でもわかる、勤続10年のベテラン契約社員さんだから」
え…!?
一瞬耳を疑いました。
タカコさんって、正社員じゃないの?あれ?三年勤めたら正社員とか、よく言うよね?
仕事できて、勤務態度も問題ないのに、10年勤めても社員になれないの!?
タカコさんが契約のままなのは、ご本人の希望かもしれないし、何か事情があるのかもしれませんし、それはわかりません。
でも、この時明確に辞めようと思いました。
埋まらない格差
ボーナスの時期になりました。
「今回は業績が良かったから、みんなに平均3.5ヶ月分つけたぞ~」
と、部長が言っていました。
ニコニコして給与明細を開くと、わたしの賞与は、何と0.8か月分。
評価が低いからだ、とがっくりしました。
そんなことも忘れて、会社の用事で出張に出ていた時のことです。
同じく契約社員で、経理部のマツコさん(仮名)が話しかけてきまして。
退屈だったのでしょう、いつもぼっちでどこの派閥にも属していないわたしなら人畜無害と踏んだのか、どこまで本当かわからない内部情報をペラペラと喋り出しました。
どこの部署の誰と誰が不倫しているとか、誰々さんは部長の関係者だから正社員になれたんだとか、会社に対してかなりヘイトが溜まっていたようで、とにかく愚痴を聞いてほしいみたいな感じでした。
特に同意もせず話を聞いていたのですが、その中で一つだけ聞き流せない話がありまして。
「知ってる?この会社って、どんなに頑張っても契約社員のボーナスの上限は0.8ヶ月なんだよ?」
あれ…?満額もらってる。
噂話や悪口の部分は、マツコさんの私的な感情が含まれているだろうから、そうなのかなぁくらいであまり気に留めなかったのですが、経理のマツコさんが賞与の事を言っているのは、かなり信憑性が高いと踏みました。
て事は、厳しい事は言われたけど、評価はされてたって事?
わからなくなりました。
おわりに
その後、わたしはその会社で働き続ける理由がわからなくなり、退職後半年して再就職しました。
今回の事で懲りたので、次は人数が多くて、大勢が同じ仕事をする所を選びました。
仕事はきつくて、退職率も高いですが、決まった時間に確実に帰れる、休みたい時に事前に希望すればまず拒否されない安心感は大きいです。
今だから言えますが、管理職の人が、ネガティブな指導をしなければならない立場なのはわかります。
わたしに厳しい事を言ってきた上司も、もっと上から、わたしの事できつい事を言われていたのかもしれません。
でも、自分が悪者になりたくないからと、「みんな」というの言葉を使うのははやめてほしいです。
嫌われるのが怖くては、管理職の仕事はできません。
形式的に、適正のない女性や、勤続年数が長くて仕事はある程度できるけれど、上に立つのには向かない人、本人が出世を希望していない場合に上のポストにつかせる事で、このような悲劇が起きると思います。
出世しない生き方や、出世の申し出を断っても不利益を受けない保障があったらいいと思います。
また、5年以上働いた有機契約労働者が無期雇用に転換できるルールから逃れようとして、あえて4年半くらいで一度解雇して、少し経ってから再雇用する、労働者の足元を見た雇い止めをする悪徳企業がいます。
根絶すべきです!
フルタイム労働なのに、正社員にならないメリットなんて、ほぼありません。
非正規のメリットって、何かの時に切られやすい代わりに、正社員、総合職ほどの責任の重さや時間の拘束を受けない事だと思っているので、もし使い捨てるなら、非正規労働者に社員と同じ重さの仕事を振らないでほしいものです。
非正規での雇用期間が、通産5年を超えたら企業側は無期雇用を断れないような法律が必要だと思います。